働きながら大学院へ
続くかどうかは、研究室選びでほとんど決まります
「仕事をしながら大学院を修了できますか」
よく聞かれます。できます、としか言いようがないのですが、できた人とできなかった人の差が、本人の頑張りではないところにあることのほうが多い。そのことを書いておきたいと思います。
計画してから進学したわけではありません
私は看護師として働いているときに、オーストラリアのホスピスへ研修に行く機会を得ました。戻ってまた働き、もう一度学びたくなって、フリンダース大学の緩和ケアの修士課程に入りました。帰国してからも看護師を続けていたのですが、海外の学会に行ったときに、ある教授から博士課程に誘われました。助手のポジションも一緒に勧められました。
考えてもいなかったので驚きました。それでも強く勧めてくださったので、その場で「行きたいです」と答えました。
チャンスの神様には、前髪しかない
カイロスというギリシャの神様の話をご存じでしょうか。前髪は豊かなのに、後ろ髪がありません。向こうから来たときにつかまなければ、通り過ぎたあとでは、もうつかむところがない。
進学は、きちんと計画を立ててから始めるものだと思っている方が多いように感じます。私はそうではありませんでした。機会のほうが先に来て、手を挙げただけです。
そもそも、大学院に行こうなどと、多くの人は考えつきません。それを考えついてしまったということ自体が、特別なことなのではないかと思います。
準備が整うのを待っているあいだに、機会のほうが通り過ぎていきます。もし今、行きたいと思ったのなら、その気持ちを大事にしてほしいと思います。
生活はどうだったか
看護学部の教員は実習があります。朝から晩まで学生についていて、その合間に自分の研究をしていました。東北大学で始めた研究を、福島県立医科大学に移ってからも続けていたので、実験のために毎月遠方へ通っていました。
休みはありませんでした。
それでも続けられたのは
どうしても知りたいことがあったからです。根性でも計画性でもなく、知りたいという気持ちが私を修了まで連れていってくれたと思っています。
もうひとつは、指導してくださった教授が支えてくれたことです。これは運ではなく、あとから振り返ると決定的な違いでした。
やめようと思ったことはあります
最初に入った研究室では、続けられなくなりました。分野を変えました。
分野を変えたあと、やめたいという気持ちはなくなりました。
研究室を見るときの3つの軸
有名な先生だから、評価の高い研究室だから、という理由で選ぶ人がとても多い。でも見るべきものは3つあります。
1. レベル
高ければよいわけではありません。自分が今いる地点から届くかどうかです。背伸びしすぎると、ついていけなくなります。
2. 指導ができる先生かどうか
研究者として研究ができない先生、論文が書けない先生は、実際にいます。そういう先生のもとで、指導を受けられないまま二年、三年を過ごしてしまう人を何人も見てきました。働きながら通う人にとって、これは取り返しがつきません。時間も学費も戻ってきません。
3. 相性
これが意外と軽く見られています。指導力があっても、合う合わないはあります。二年から五年、その人と向き合うことになります。
入る前に確認できることがあります。
- 直近3年の英語論文の実績(researchmapやGoogle Scholarで見られます)
- 科研費を取っているか
- 研究室で論文抄読会をしているか
- 現役の院生がどう感じているか
最後のひとつがいちばん確かです。可能なら、在籍している院生に直接聞いてください。指導を受けなくても自分でやれる自信があるなら別ですが、そうでないなら、指導ができて、相性の合う先生を選んでほしいと思います。
研究テーマは、探さなくていい
テーマが決まらない、という相談もよく受けます。文献を探すところから始めようとする方が多いのですが、順番が逆です。
私がリンパ浮腫を研究しているのは、テーマを探して見つけたからではありません。乳がん患者さんを支えるNPOの理事をしていて、もともと関わっていた分野でした。ホスピスでも、むくみのある患者さんをたくさん見ていました。何かできることはないか、と思った。それだけです。
すでに関わっている場所に、研究の種はあります。
テーマの見つけ方から研究計画書の1行目までを、全7回の短い動画でも話しています。
最後に
知りたいことは知りたい。その気持ちは今も続いていて、だからリンパ浮腫の研究をずっと続けています。
両立できるかどうかを心配している方へ。心配すべきは時間の使い方ではなく、最後まで自分を引っ張ってくれるものが自分の中にあるかどうかと、それを支えてくれる人のところに入れるかどうかです。
